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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1664号 判決 1969年5月28日

原告(反訴被告)

徳武重信

ほか一名

被告(反訴原告)

東和鉄鋼株式会社

ほか一名

主文

一、被告(反訴原告)東和鉄鋼株式会社、被告鈴木恒は各自原告(反訴被告)徳武重信に対し金三七六、二三三円、原告日本プラスチツクフオーム株式会社に対し金三三二、八八〇円および右各金員に対する昭和四三年二月二四日以降支払済みにいたるまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、右原告らの右被告らに対するその余の本訴請求を棄却する。

三、原告(反訴被告)徳武重信は被告(反訴原告)東和鉄鋼株式会社に対し金二二七、七六六円およびこれに対する昭和四三年六月三〇日以降支払い済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

四、右被告(反訴原告)の右原告(反訴被告)に対するその余の反訴請求を棄却する。

五、訴訟費用は本訴反訴を通じ四分しその三を原告(反訴被告)徳武重信、原告日本プラスチツクフオーム株式会社の、その余を被告(反訴原告)東和鉄鋼株式会社、被告鈴木恒の各負担とする。

六、この判決は右第一、三項に限り仮執行することができる。

事実

以下原告(反訴被告)徳武重信を単に原告徳武と称し、被告(反訴原告)東和鉄鋼株式会社を単に被告会社と称する。

第一、請求の趣旨

(本訴)

一、被告らは各自原告徳武に対し、一、六〇八、一三三円、原告日本プラスチツクフオーム株式会社(以下原告会社という)に対し九二〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四三年二月二四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。との判決および仮執行の宣言を求める。

(反訴)

一、原告徳武は被告会社に対し三七九、六一〇円およびこれに対する昭和四三年六月三〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、訴訟費用は原告徳武の負担とする。との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

(本訴)

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。との判決を求める。

(反訴)

一、被告会社の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告会社の負担とする。との判決を求める。

第三、請求の原因

(本訴)

一、(事故の発生)

原告徳武は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告会社はその所有に属する自動車を損懐された。

(一)発生時 昭和四二年八月二三日、午前八時頃

(二)発生地 東京都中野区丸山町二丁目先交差点

(三)加害者 貨物自動車(品一せ四九二九号以下甲車という)

運転者 被告 鈴木恒(以下被告鈴木という)

(四)被害者 普通自動車(品五め九三〇八号以下乙車という)

運転者 原告 徳武

被害者 原告

(五)態様 乙車は練馬区中村南町方面から目白方面へ抜ける道路を進行中甲車は右道路と交差する還状七号線を進行して来て、乙の左方より衝突した。

(六)被害者 原告徳武の傷害の部位程度は、次のとおりである。

脳震盪、左上肢擦過傷、左膝打撲、第二頸椎骨折により入院加療一ケ月通院二ケ月以上を要した。

(七)また、その後遺症の発生を危惧しなければならない状態である。

二、(責任原因)

被告らはそれぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(一)被告会社は、甲車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)被告会社は、被告鈴木を使用し、同人が同被告の業務執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

(三)被告鈴木は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇条の責任。

原告徳武は右交差点に入る前一旦停止し、左右を確認したうえ交差点に入り、そのセンターライン手前に於いて再度停車し、左方より進行してくる数台の自動車をやり過し、甲車を約六〇米の距離に認めたので、直進したところ、被告鈴木は、交通整理の行なわれていない交差点で乙車が既に交差点に入つていたのであるから、その進行を妨げてはならないのに拘らず、これに違反し、時速六〇粁以上で右交差点に突入して来た。これは、制限速度に違反し前方不注視の過失がある。

三、損害

(1) 原告徳武の損害

イ 治療費 二四六、四六七円

ロ 附添費 四五、〇〇〇円

ハ 入限院時の医師、看護婦への謝礼金 二〇、〇〇〇円

ニ 交通費及び雑費 二〇、〇〇〇円

ホ 弁護士に支払つた着手金 一五、〇〇〇円

ヘ 欠勤による損害(原告会社より原告徳武が月給二〇万円を受けていたところ、昭和四二年八月二三日より一〇月一〇日まで欠勤し収入を得ることができなかったことによる。)三二六、六六六円

ト 慰藉料 八〇〇、〇〇〇円

右合計 一、四七三、一三三円

(2) 原告会社の損害

イ 自動車修理費その他の損害 八五〇、〇〇〇円

ロ 弁護士に支払つた着手金 七〇、〇〇〇円

合計 九二〇、〇〇〇円

四、よつて、被告らに対し、原告徳武は一、六〇八、一三三円原告会社は九二〇、〇〇〇円および右各金員に対し訴状送達の日の翌日である昭和四三年二月二四日から支払済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(反訴)

一、被告会社は本訴請求原因第一項(一)ないし(四)の交通事故によりその所有に属する甲車を壊された。なお、その態様は次のとおりである。

被告鈴木は甲車を運転し板橋方面から大森方面に進行中右側から左側へ進行しようとしていた原告徳武の運転する乙車が道路中央線上に一旦停車した後甲車が時速四〇粁で進行しているのに不注意にも、発進した結果衝突事故をおこし、甲車は左側走道より乗り出し、訴外酒井七郎所有にかかる七福ビルに突入し、右ビルのアルミ製扉等を破損した。

二、(責任原因)

原告徳武は次の理由により、本件事故により生じた被告会社の損害を賠償する責任がある。

原告徳武は左方から甲車が直進してきたにもかかわらず不注意に飛び出したものである(直進車優先)。

三、被告会社の損害

(一) 自動車修理代 一一六、六一〇円。

(二) 七福ビルの破損個所の修理代金として二六三、〇〇〇円を原告徳武が支払うべきを被告会社が立替支払つた結果同額の損害を蒙つた。

四、よつて、被告会社は原告徳武に対し三七九、六一〇円およびこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和四三年六月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四、被告らの事実主張

一、(本訴請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)の中衝突の事実は認めその余は否認する。(六)は知らない。(七)は知らない。

第二項中被告鈴木の過失の点を否認しその余は認める。

第三は不知。

二、(事故態様に関する主張)

原告徳武は左方から進行してきた甲車があるにもかかわらず不注意にもとび出したものである。(当時甲車の前に小型自動車が走つておりその間隔は二〇米前後であり、甲車の速度は四〇粁である。)。

三、(抗弁)

免責

右のとおりであつて、被告鈴木には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに原告徳武の過失によるものである。

また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、加害者には構造の缺陥も機能の障害もなかつたものであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。

第五、原告徳武の事実主張

一、(反訴請求原因に対する認否)

第一項中事故の態称に関する主張を否認し、その余は認める。

第二項否認。

第三項は争う。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、本訴請求原因第一項(一)ないし(四)は当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、同原告は本件事故により脳震盪、左上肢擦過傷、左膝打撲、第二頸椎骨折の傷害を受け、浄風園病院に事故当日より昭和四二年九月二一日頃まで三〇日間入院し、その後同病院に一ケ月位一週間二回の割合で通院治療したこと、原告会社所有の乙車を破損されたことが認められる。

二、被告会社が甲車を自己のため運行の用に供していたこと、被告鈴木が被告会社の被用者であり、被告会社の事業の執行中本件事故を惹起したことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕を総合すれば次の事実が認められる。

(イ)  本件事故発生の交差点は、南北の車道幅員約二七~八米センターライン両側に第一ないし第三通行区分帯に分れる環状七号線と、西から東に通る幅員八~五米の道路がやや斜めに交る交通整理の行なわれていない交差点である。なお、制限時速は五〇粁までと定められていた。

(ロ)  原告徳武は乙車を運転し西から東方へ向け進行し、本件交差点の手前で一時停車し交差点に侵入し、センターラインのところで停車し、北から南に進行して行つた車の通過を持つていたが、乙車停車位置より約数〇米位先にかなり速い速度で南進して来る甲車を発見したが、その前を横断し得るものと思い発進したところ、反対側車線の中央附近で甲車に衝突された。

(ハ)  被告鈴木は甲車を運転し環状七号線の左第二通行区分帯を北から南方に向つて時速約四〇~五〇粁で進行中本件交差点から約二〇米手前にいたつたとき、センターライン附近より発進してきた乙車を発見したが、同車は右折するものと思い、そのままの速度で進行したところ、乙車がまつすぐ横断して来たので、乙車左側に甲車を衝突させ、甲車を七福ビル内に突入させ同ビルを破損させた。右認定に反する乙第四、五号の記載部分、原告徳武・被告鈴木各本人の供述は措信し難い。

右認定事実によれば被告鈴木には、自車の前方を横断又は右折する態勢にある乙車を発見したのであるから減速徐行するか又は一時停車して事故の発生を防止すべき義務があるのにこれに違反した過失があるというべきであり、一方原告徳武には、交通整理の行われていない、道路の幅員明らかに広い道路と交差する交差点を直進するに当り、広路を直進して来る甲車を認めたのであるから進路を譲るべき義務があるに拘らず同車の前前方を通過し得るものと判断を誤り発進した過失があることが認められる。

従つて被告会社の免責の抗弁は採用の限りではない。そして、右認定事実によれば、原告徳武と被告鈴木の本件事故についての過失の割合はおおむね原告徳武六、被告鈴木四と解するを相当する。

三、(イ)〔証拠略〕によれば、原告徳武は前認定の入院通院の治療費として同原告か本訴で請求する二四六、四六七円を超える金員を支払つたこと、右入院期間付添看護が必要であつたので、同原告の妻が付添つたこと、医師、看護婦に対し数回に分けて物を買つて謝礼したこと、同原告の自宅から浄風園病院まで約三粁あり、通院には最初タクシーを利用したが、後には原告会社の車を社員に運転させたり、自分で運転して通院したこと、原告徳武は事故当時原告会社の代表取締役であり、一ケ月二〇〇、〇〇〇円の給与を得ていたところ、本件事故により昭和四二年一〇月中旬頃まで休んだため同年九月分として一五、三八四円、同年一〇月分として六四、〇〇〇円の給与を得たに過ぎず、三二〇、六一六円の減収となつたことが認められる。

右認定事実によると、原告徳武の弁護士費用、慰藉料を除く損害は<1>治療費二四六、四六七円、<2>附添費として妻の附添にあつても職業附添婦の賃金に照らし一日一、〇〇〇円程度の損害があつたものと解されるので入院期間三〇日につき三〇、〇〇〇円、<3>医師看護婦への謝礼、通院交通費、入院雑費については、いくばくかの出捐のあつたことは認められるがその額について把握し難いのでこれらを合わせ経験則により入院期間一日につき二〇〇円合計六、〇〇〇円の範囲において相当因果関係のある損害と認められ、<4>休業による損害は三二〇、六一六円と認められ、右の<1>ないし<4>の合計は六〇三、〇八三円となるところ、前認定の原告徳武の過失を斟酌すれば二四一、二三三円となる。

(ロ) 右認定の原告徳武の受傷の部位程度、入通院の期間、本件事故の態様、双方の過失の程度等すべての事情を考慮し、同原告の受くべき慰藉料は一〇〇、〇〇〇円が相当である。

(ハ) 原告徳武は本件訴訟提起を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであるが、その弁護士費用のうち被告らに賠償を求めることができるのは、右(イ)(ロ)の合計金額の約一割である三五、〇〇〇円を相当とする。

四、(イ) 〔証拠略〕によれば、原告会社は乙車を昭和四一年九月末頃一二〇万円で購入したものであるが、本件事故により使用不能程度に破損されたので下取り価額六〇、〇〇〇円で下取りとし他の自動車を購入したことが認められる。

右認定事実によると本件事故当事の乙車の価額は、購入時より約一年を経過したものとして「減価償却資産の耐用年数に関する省令」(昭和四〇年大蔵省令第一五号の定率法によれば償却率が〇・三一九と定められるので一年目の償却額は三八二、八〇〇円となり、残存価額は八一七、二〇〇円程度であつたものと推認でき、本件事故により破損され、六〇、〇〇〇円の価額に減じたものというべきで、損害額は七五七、二〇〇円となるが、前認定の原告徳武の過失を斟酌すれば、三〇二、八八〇円となる。

(ロ) 原告会社が本訴提起を原告ら訴訟代理人に委任したこと記録上明らかであるが、これに要した弁護士費用のうち被告らに賠償を求めることができるのは右額の約一割である三〇、〇〇〇円が相当と認める。

五、(イ)〔証拠略〕によれば被告鈴木の運転する被告会社の所有の甲車が本件事故により破損し、甲車は訴外酒井七郎所有の七福ビル入口に衝突し建物の一部を破損したことが認められる。そして、本件事故につき原告徳武に過失の認められること前認定のとおりであるので同原告は被告会社の次の損害を賠償すべき義務がある。

(ロ)〔証拠略〕によれば、被告会社は、甲車の修理費として一一六、六一〇円程度を必要とし、被告会社は前記七福ビルの破損修理費として二六三、〇〇〇円を酒井七郎に支払い、合計三七九、六一〇円の損害を蒙つたことが認められる。しかして、これに前認定の被告鈴木の過失を斟酌すれば原告徳武に賠償を求め得る額は二三七、七六六円となる。

六、 よって、原告らの本訴請求のうち、原告徳武の被告らに対し各自三七六、二三三円、原告会社の被告らに対し各自三三二、八八〇円及び右各金員に対し訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年二月二四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、被告会社の原告徳武に対する反訴請求のうち、二二七、七六六円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年六月三〇日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める部分は正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

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